ワ イン鑑定家にとって千載一遇の機会である百科事典のようなセラー(11月24日・11月25日にサザビーズ香港で開催)でのThe Epicurean's Atlas(エピキュリアンズ・アトラス)が幕を開けます – 5回に分けて単独オークションが開催されるランドマーク・グローバル・シリーズでは、稀代の美食家、また目利きであるピエール・チェン氏が所有する神聖なセラー蔵出しの25,000本が出品されます。
稀少ボトルや伝説のビンテージを豊富に揃えたセラーは、約40年に渡り、丹念に、鑑識眼と鋭い味覚をもって構築されてきたものです。その後のオークションも特定の地域やワインの種類に焦点を合わせて組み立てられていきますが、チェン氏のセラー蔵出しの最初を飾るセールは、並外れた、まさに百科事典のようなそのコレクションの品揃えや、品質の幅広さを理解できるように構成されています。以下に挙げるのは、オークションに登場するワイン5選です。
シャトー・ムートン・ロートシルト 1959年
戦後の苦難や窮乏の時代が終わり、生産者が大望の飛躍的発展を遂げた1959年は、ボルドーにとって重要な年でした。ビンテージといわれるのは、豊富な生産量のみならず、当時のワインは見事な出来栄えでもあり、中でもムートン・ロートシルトはずば抜けていました。「1959年 ムートン・ロートシルトについては、最高級のものはなかなか入手できないこともあり得ますが、それならまだ、バロン・フィリップのカノンに加え、素晴らしい商品が他にもあります」とは、評論家のニール・マーティン氏が著作The Complete Bordeaux Vintage Guide: One Hundred and Fifty Years from 1870 to 2020.に記した言葉です。
ラベルを手掛けたのはドイツ生まれのアメリカ人彫刻家、リチャード・リッポルドです。工業デザインのスタジオを立ち上げてキャリアのスタートを切った彼は、金属製ワイヤーを使った作品で知られています。このラベルについては、リッポルドがワインの色とワイヤー、ブドウ樹の位置をあれこれ考えた末に、彼独特のスタイルでスッキリとした幾何学的デザインが生まれました。
ペトリュス 1982年
出品ロットは誰もが欲しがる憧れの商品が1本、2本1組となりますが、このアイコン的商品はいずれの場合も必ず、高尚なワインの世界を以外にもその名前が広く普及しているものとなります。1982年は周知の通り、栄冠のボルドーのビンテージです。ペトリュスは、ポムロールエステートすべての中で最も神聖化されており、たっての要望によって、その名が究極のワイン・エクスペリエンスを表すようになりました。その由来は、「ペトリュスといえばポムロール、だがそれ以上に、ペトリュスはペトリュスである」というメルロー種のブドウに関する極端な表現にあります。ペトリュスのブドウ園は、ほぼ完全に、伝説の青味がかった粘土、スメクタイトの『ボタンホール』上、つまりボルドーの右岸に位置しています。1982年物を生産したのはジャン・クロード・ベルエ氏ですが、彼がペトリュスのビンテージをデビュー作として手がけたのは1964年、2007年ビンテージを最後にテクニカルディレクターを辞するまで40年以上もの間、頭と味覚を駆使して休みなく、ペトリュスのワインを形づくってきました。
ドン・ペリニヨン ロゼ P3 1988年
このドン・ペリニヨン ロゼは、ロゼ・シャンパーニュが流行となり、広い範囲で生産されるようになる前の時代からやって来ました。その時代の状態を保って、本日登場します。こちらはドン・ペリニヨン初のロゼのリリースとはほど遠いものでしたが、光栄にも1971年に発売した1959年物のドン・ペリニヨン ロゼの仲間入りを果たしました。卓越した骨格と熟成のポテンシャルが世に知られたドン・ペリニヨンが周知の通り、熟成の段階をそれぞれ変えてリリースされます。P3ワインは、数十年かけて堆積したオリを愛でてから、オリを抜き、ワインが若いときのポテンシャルを最大限まで見せるものです。
ラ・ターシュ 1990年 ドメーヌ・ド・ラ・ロマネコンティ
ラ・ターシュは名誉ある名であり、また、ここはモノポールでもあります。モノポールとは専売・独占を表すフランス語で、1933年にこの土地を取得した伝説のドメーヌ・ロマネ・コンティを単独所有している者によって管理されている、ブドウ園やアペラシオンを示しています。そこは6.06ヘクタール(その6エーカーがバーガンディでは重要で、そこでは小さな土地ひとつひとつ、そしてまさにブドウ樹一本一本も数に入れます)のグラン・クリュ ピノ・ノワール(コート・ド・ニュイにあるヴォーヌ・ロマネの村内)から成ります。その土地のワインは、芳醇、フローラルで享楽的であると知られているほか、1990年物は最高のバーガンディ・ビンテージでした。
クロ・ド・ラ・ロシュ 1990年 ドメーヌ・デュジャック
その魅惑的なパフュームから感じる腕の冴え、尊さに熱いまなざしが注がれるデュジャックのワインは、バーガンディの愛飲家にとって極めて入手困難なものです。ドメーヌはセイス家が経営していますが、同社を1960年代後半にジャック・セイス氏が買収しています(社名は ドメーヌ・デュジャック – ジャックのドメーヌの短縮形)。クロ・ド・ラ・ロシュの1.95ヘクタールのほとんどを占めるグラン・クリュのブドウ園は、モレ・サン・ドニの北端に位置、ジュヴレ・シャンベルタンとの境界線にまで広がっていますが、最初の土地の買い入れに遡ると、そこからさらに規模を拡大しています。クロ・ド・ラ・ロシュのワインには若いワインが持つコシの強さがあり、それがこのワインの卓越した長命に貢献しているのです。